きょう、(小説 三好長慶)

近世のきのう、中世のあした。三好長慶の物語

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

四 恩讐の段  ――細川六郎 淡路へ敗走し、三好千熊丸 和睦を仲介す――

四 恩讐の段 強い西風を受けて船の速度は鈍く、揺れが激しかった。 千熊丸はじっと東を、堺を見つめている。風の唸り音、艪の漕ぎ音がなぜか一揆の勝ち鬨のように耳に残り、苛立ってしまう。敗軍というのは、こんなにも惨めなものかと思った。この船も周りの…

三 夏菊の段  ――細川六郎 一向一揆を煽動し、三好元長 顕本寺の天井を血に染める――

三 夏菊の段 (飛車が、龍に成ろうとしている) 飯盛山城。木沢長政が再び将棋盤を眺めている。敵陣がなくなり、駒は自陣しか残っていない。自陣からも角が消えていた。 ここまでの流れは、ほぼ長政の構想通りに進んでいる。ただ、飛車たる元長の戦果は想定…

二 掛かり太鼓の段  ――三好元長 大物崩れを成し遂げ、木沢長政 次の一手を画策す――

二 掛かり太鼓の段 河内国、飯盛山城(大阪府大東市・四条畷市)。夜深く、城主の館には灯りがひとつのみ。 木沢長政は将棋盤を眺めていた。盤上には初期配置のように駒が並べてあったが、よく見ると敵陣の駒は幾つか歯抜けになっているし、自陣には玉将が二…

一 吉野川の段  ――三好元長 阿波に帰国し、三好千熊丸 父の夢を追う――

『きょう、』 一 吉野川の段 天頂に満月が昇り、吉野川の水面に光を落している。 川の周りは深い山々。三好一族の本拠、芝生城(徳島県三好市)はこの地にあった。もっとも、城と言ってもささやかな板塀や空堀に囲われた館に過ぎない。付近の人家もまばらで…